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東京高等裁判所 昭和58年(ラ)45号 決定

抗告人 具次龍

右代理人弁護士 平松敏則

相手方 有限会社メキシコ

右代表者代表取締役 天野勉

主文

本件執行抗告を棄却する。

理由

抗告人は、原決定を取消す旨の申立をなし、その理由は別紙抗告の理由書記載のとおりである。

まず、本件差押命令申請書ならびに本件差押命令をみると、その目的とする差押債権は債務者が第三債務者たる株式会社相模原ゴルフクラブに対して有する正会員権であつて、同会社に対する株主権を含まないものと解せられる(右申請書ならびに命令に添付された目録に株式番号ならびに額面額の記載があるのは会員権を特定するための方法にすぎない。)。それ故本件差押命令が株主権を差押の目的としたことを前提とする抗告人の主張はそれ自体失当である。

次ぎに、およそ換価可能な権利であつて、他の方法によつて差押えることのできないものは、民事執行法第一六七条第一項により債権執行の例によつてこれを差押えうるものであり、かつ債権差押命令は債務者及び第三債務者を審尋しないで発せられるものであつて、実体上当該債権が存在することが命令を発するための要件ではなく、従つて当該権利が右命令当時存在していなかつたことがのちに判明した場合においても、当該命令が無効なだけであつて、これを取消す必要はなく、前記第一六七条第一項によつてなされた差押命令についても同様である。そして当該権利が換価できるものであるかどうか、すなわち差押になじむものであるかどうかについても、債務者又は第三債務者を審尋することなく命令が発せられるものである以上、執行裁判所は申請人の主張自体からそれが換価不能であり、差押になじまない権利であることが明らかでない限り、差押命令を発すべきものであり、のちにそれが差押に適しない権利であることが判明しても、右命令によつて差押の効力が生じなかつたことになるだけであつて、差押命令を取消す必要はない。差押命令は債務者と第三債務者との間の権利義務関係を確定するためのものではなく、右確定は他の訴訟手続によつてなされるべきものだからである。そして本件差押命令に掲げられた前記の権利は、債権者の主張自体によつてはこれを換価不能な権利であると断ずることはできないから、原裁判所が本件申請に基づいて本件差押命令を発したことになんらの違法はなく、債務者と第三債務者との間の実体関係に基づいて本件命令の違法をいう抗告人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件執行抗告はこれを棄却する

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 寒竹剛)

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